自己肯定感の人間関係と、それを脅かすものの圏外化


若い人たちの人間関係は、自己肯定感を維持するための基盤ですから、たとえ差し迫った切実な話題がなくても、コミュニケーションの場はつねに確保されていなければなりません。しかし、具体的な他者の反応に根拠を置くわけですから、その肯定感は相手しだいで大きく揺らぎます。そのため、少しでもそれを安定させようと、できるだけ自己承認を得やすい安全パイの関係が求められ、「類友」と称されるような同質の人間だけと結びつこうとします。ボケとツッコミの関係も、予定調和の枠組みから外れないという点では、そのバリエーションの一つにすぎません。
他方、異質の人間とは、適度な距離をもって付きあったり、あるいは対決を試みたりするのではなく、そもそも最初から認知対象の圏外へと押し出してしまいがちです。自分の内部に安定した肯定感の基盤があれば、それを拠り所にして異質な人間とも接触を保ち続けたり、場合によっては対立を表明したりすることもできるでしょう。しかし、いまはその基盤を自らの内面にもちえず、他者の反応にその役割を求めているために、目の前に現われた異質な人間は、自己肯定感を根底から揺さぶり、危機にさらしてしまうのです。
ところが、ひたすら同質の類友だけとつながっている日常は、意外性による刺激を受けることがありませんから、徐々に活気を失って空気が澱んできます。このとき、関係の維持に脅威とならない対立軸を集団内にもち込むことで空気を掻き回し、澱んだ関係を再活性化するためのテクニックとして登場してくるのが、いじりやすい生徒のキャラを標的とした今日のいじめです。


土井隆義『キャラ化する/される子どもたち』, pp.20-21.