選挙演説会のPDCA(『絶対の宣伝』)


(註:1930年9月の総選挙において)二千三百名余の党弁士が各地へ飛びまわった。党の弁士は、演説後、つぎのようなアンケートに答える義務があったことを、プリダムは伝えている。

  • 集会の準備はどうだったか。
  • 聴衆はどのように集められたか――ポスターによってか、ビラによってか――(できれば、ビラないしポスターを一部送ること)。
  • 地方支部を代表してだれが来、何をしたか。
  • 突撃隊(ないし親衛隊)による警備が整えられたか(部隊名と番号を記入せよ)。
  • 音楽が利用されたか。
  • 集会の議長団はどうだったか。だれが議長だったか。
  • 入場料はどうだったか。党員にはいくらだったか。失業党員にはいくらだったか。
  • 弁士は集会の成果をどう判断するか。
  • 弁士は嫌がらせやもめごとに出会ったか。

集会には、入場料をとることは、ナチス党発生以来の慣わしだが、このころの選挙演説会でも持続していたことがわかる。入場料は、集会の見世物性と関係があるとともに、参加感覚を増長させる宣伝的効果を持ち、ただより高いものはないという大衆の知恵を逆手にとっていた。音楽の利用の有無が、アンケートの項目にあるということは、いかにその効果を尊重していたかを示すが、なによりも、効果を計るその組織化には驚かざるをえない。ムダな鉄砲は撃たないのである。さらに他党の選挙運動と違っていた点は、直接選挙に関係のない催し物を随時、開いたことである。庭園コンサート、スポーツ大会、青年の野外活動、突撃隊による戦没者慰霊祭などである。


草森紳一 『絶対の宣伝(3) 煽動の方法』, pp.229-230.