「コミュニケーションのためのコミュニケーション」はプロモーションより前から考える。
昨日読んでいた本は社会学者の鈴木謙介氏と電通消費者研究センターの共著『わたしたち消費』。
昨年末に同センターが「2007〜2008年の消費潮流」のキーワードとして発表した(参考:PDF文書)
「ネタ共振消費」の裏付けとなっている本。
特に新しいというわけではないですが、前半は日本の消費文化と変遷をうまくまとめています。
「みんな」というモノサシから「わたし」というモノサシへの移行、言い換えれば、消費の動機づけを提供していた<物語>の細分化は、八〇年代には、ひとつの「かけ声」と言っていいものでした。実際に消費の細分化は進行するのですが、マクロレベルで見れば、それを支えていたのは、むしろ「みんな」というモノサシに合わせるための基盤が崩れていったことです。
それでも、おそらくは九〇年代の前半くらいまでは、誰もが「みんな」というモノサシを求めて、特定の商品に関心が集中するという事態が生じていました。しかし、それらも虚構にすぎないものになり、(略)。
とはいえ、人びとがそうした関心の分化に基づいて、個々ばらばらになっていった、というわけでもない、というのが本書における私の立場です。「みんな」というモノサシが自明なものでなくなり、個別の動機が重要になったとしても、それが集合し、「わたし」という動機の結合体としての<わたしたち>を生んでいる。それが、様々な場面での「見えないヒット商品」の登場の要因であると私は考えています。
pp.84-85(太線部は引用者による強調)
「物語」という言葉を持ち出しているあたりで、ポストモダン論と結びつくのですが、
「大衆」が崩壊した後、しかしその大衆は別の形でまとまっているのだと論じています。
それが「わたし」を拡張した「わたしたち」であり、それをまとめる媒介が「ネタ」という論旨。
共同体から共同性へ、人びとのつながりへの希求のあり方が変化してくると、そこで重要になるのは、そのつながりが共同体の形式を取っているかどうかではなく、参加しているメンバーにとって「共同体のように感じられるかどうか」という点になります。ここに、私たち消費の源泉となっている人びとの繋がりに、「ネタ的コミュニケーション」のような、コミュニケーションのためのコミュニケーションが求められる要因があります。わたしたち消費における口コミは、単に口コミであるというだけで信頼されるのではなく、それが参加者にとって求められている共同性を強化するものである限りにおいて信頼されるのです。
pp.107-108(太線部は引用者による強調)
そのネタを媒介としたコミュニケーションは再起性が高いもので、
コミュニケーションの媒介となる「ネタ」が、コミュニケーションによるものだったりします。
その例としてフラッシュ・モブなどを挙げています。
そのうえで、市場戦略でどのようにこの「ネタ的コミュニケーション」を利用するかについて、
以下のようにヒントを提示しています。
<わたしたち>という共同性の源泉となるネタ的コミュニケーションは、コミュニケーションのためのコミュニケーションですから、内容そのものより、形式として盛り上がっているかどうかが重要な意味を持ちます。「なんだかよく分からないけど、話が盛り上がっている」と感じられる状況が、さらなる次のコミュニケーションを生むのです。
pp.115-116(太線部は引用者による強調)
これは「検索急上昇ランキング」などの「盛り上がり感」にもつながりますね。
このように語った上で、後半部分では<わたしたち>の拡張のティッピングポイントにおける
テレビ番組やCMの果たす大きな役割などをしっかり入れ込んでいるのは手前味噌感があります。
ただ、いわゆる「インフルエンサー」が重要であることには言及しつつも、
安直なブロガープロモーションに落とし込んでいないのは賢明だと思いました。
最近、読んだ日経ビジネスオンラインの記事でも興味深い記述がありました。
最近、クライアントから、IMC(統合型)マーケティングプランニングをご依頼いただく中で、ブロガーを活用した、クチコミプロモーションも検討してほしいというケースが増えています。
しかし、これは以前から何度もこのコラムで書かせていただいているように、一部のクチコミブログプロダクションと、そのプロモートに煽られたマーケティングリテラシーの低いマスメディアが作った“ブログマーケティング万能の幻想”の弊害の影響が少なくありません。
ブログプロモーションに興味のあるクライントからの質問の多くは“イニシャルは何人位のブロガーたちに、情報を仕込むべきか?”とか“どのブログネットワークを利用して仕込むのが一番効果的か?”といった非常に瑣末な目先のテクニック論です。
“どんな商品でも、うまくブロガーに仕込めれば高額の広告費を使わなくても、大量のクチコミが起きて、自社の製品をアピールできるかもしれない”というメディアが作った“実際には、ほぼあり得ない都合のいい妄想”を信じている企業がまだまだ多いということなのです。
記事の副題にもあるように「クチコミは“起こす”ものではなく“起きる”もの」。
いかにネタにしやすいプロダクトを生むか、ということは
プロモーションよりも前の企業のマーケティング課題です。
関連エントリ:「2008年は『手ごたえ経済』」(2008年1月19日)
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