「コミュニケーション戦略」

業界誌、というか業界団体誌、ということになってしまうのでしょうが、
JAAA(社団法人日本広告業協会)の発行している『JAAA REPORTS』の臨時増刊号
「第37回 懸賞論文 入賞・入選作品集」を読んでいたのですが、
銅賞の博報堂伊藤耕太氏の論文「世の中を『動かす』仕事」が刺激的でした。


広告の現場ではたらく私たちの仕事そのものに対して、
改めて意識を向けているという点で、非常にいい論考だと思いました。


論点はいくつかに及ぶのですが、
最後の「コミュニケーション戦略」の部分にはとても納得しました。
伊藤氏は「戦略」という語の原義を持ち出した上で、広告会社の提示している
コミュニケーション戦略」は「戦略」たりえているか、と自問しています。


コミュニケーション戦略と言えばコミュニケーション戦術、つまりクリエイティブと組み合わせて、なんとなく「ロジカル」な提案にできるように思えるが、そうすることで我々は「本来の商品/事業戦略の検証」を無自覚に省略することになる。成熟時代においてはもはや、本質的な課題把握/発見の無い提案――コミュニケーション戦略のみに依拠した提案――からは、本当に有効なソリューションは生まれないことは前述したとおりである。更にそれが「クリエイティブが『ロジカル』な意味でも正しいように見えるよう事後的に組み上げられた『フィクション』」である場合などは、クライアントのビジネスにとって一ミリの貢献も成しえない可能性が高い。


伊藤耕太「世の中を『動かす』仕事」―成熟社会における『広告の現場』の条件」
『JAAA REPORTS』No.602, pp.31-32. (原文傍点部を引用時に太字表記)


こう考えると、広告会社はコンサルティングファームを指向することになり、
それに対してはもちろん議論があるでしょうし、
業態が変わるわけですから雇用計画にも関わる問題だと思いますが、まず足元の部分で、


「このオリエンテーションは、果たして正確に課題を捉えたうえでなされているのだろうか」と疑うこと


同, p.30.

は大事ですね。クライアントのビジネスを成功に導く、あるいはそれをアシストするために。