「オタク的感性の特徴」


オタク的感性の特徴は、特定のキャラクター(登場人物)に対して、一方でそれが絵としてどのように描かれたのか、作画スタッフの癖から技法的細部にいたるまで執拗に詮索しつつ、他方でそのキャラクターがあたかも絵でないかのように(実在の人物であるかのように)強い感情を向ける、その矛盾する二つの態度の共存にある。つまり彼らは、描かれたキャラクターを、一方でイメージを(絵)として、他方でシンボル(人間を表す記号)として二重に処理している。オタク的主体のシニカルさは、まさに想像的処理と象徴的処理のあいだの往復に支えられている。そのメカニズムは、精神分析的には、かつて近代的主体のシニカルさが想像的同一化と象徴的同一化のあいだの往復に支えられていたことの、正確な、ただしポストモダン的に変形された対応物だと考えられるだろう。
オタク的往復は一般には、より杜撰に現実(アニメを絵として見る)と非現実(アニメを象徴として見る)の混同として理解されている。しかし、実際はだれも現実と非現実を混同したりはしない。


東浩紀サイバースペースはなぜそう呼ばれるか」第6回, 『情報環境論集』pp.293-294.
初出は『InterCommunication』第27号(1998年11号).
太字部分は原文では傍点。

情報環境論集―東浩紀コレクションS (講談社BOX)

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