「趣味の共同体」

ちょっとしたことで、社内のメールのやりとりで、
東浩紀の言う「郵便的不安」という言葉を引用したことがきっかけで、
あらためて彼の『郵便的不安たち#』を読み返しています。


下のヌキガキ箇所は、この評論の話の流れからすると傍流だし、
なにしろ10年も前のテクストだけれども、おもしろいくだりです。
ポストモダン化が進み、社会を包括する「大きな物語」が崩壊した後の
状況に触れた箇所です。


とにかく人々の関心はバラバラなわけだから、僕がそういう作業をやっていても、それが誰にピンと来るかは誰にも分からない。ただそれでも、読むひとが、それぞれの趣味の共同体からちょっとでも外に出てくれればいい。
そういえば最近、いま話題の「ドリームキャスト」のCMについて、朝日新聞秋元康氏のインタヴューが載っていました。そこで秋元氏が言うには、いまやお婆さんから子供まで全部ウケるCMや商品を作るのは無理である。いまは一つのアイテムについてマーケットは五万人くらいしかいない。したがって、湯川専務のファンを五万人、ジャニーズJrのファンを五万人、それぞれのゲームのファンを五万人、そんなふうに五万人のファンを少しずつ倒し、将棋倒し的にヒットを生み出していくしかない。僕の本とはケタがひとつふたつ違いますし、またそれが上手くいくかどうかも分かりませんが、僕はこの考え方は好きです。


東浩紀「郵便的不安たち――『存在論的、郵便的』からより遠くへ」(1998年)


郵便的不安たち# (朝日文庫)

郵便的不安たち# (朝日文庫)