「デザイナーズマンション」の様式化

どうでもいいことですが、「デザイナーズマンション」というコトバがどうも引っかかっています。


というのも、最近不動産物件のサイトを個人的関心から(まあ、ひとつしかないですが)見ていて、
この「デザイナーズマンション」というコトバをよく目にするのですが、
引っかかっているのは「デザイナーズマンション」って言っている割には、
その「デザイナー」が見えてこない点です。


っていうことを考えた時に、ここですでに了解事項となっていることは、


デザイナーズマンション=有名もしくは独創的なデザイナーによって設計されたマンション
ということだと思います。
ここで一旦伏せられているのは、どんなマンションだってデザイナーによってデザインされているということ。
本来的には「デザインをする人=デザイナー」なのですから。


つまり、あえて「デザイナーズマンション」と言った場合は、
「a designer」の手によるものではなく「the designer」によるものですよ、という強調が含意されている。


しかしそのように言うのであれば、その「デザイナー」が前面に出なくてはならないと思うのですが、
「デザイナーズマンションです」「デザイナーズ物件です」といったあっけらかんとした記述で
大抵の場合済んでしまっています。


これは、物件を探す人にとってデザイナーの具体名を挙げられてもわからないってことも多分にありますが、
それ以上に、「デザイナーズマンション」というものが様式化している可能性があるのでは、と感じます。


著名デザイナーによるマンションが徐々に知られたり、流通するようになるうちに、
世間的に「デザイナーズマンション」の一般的なイメージが形成され(ガラスが多用されている、とか)、
その結果、今ではそういうイメージに基づいた様式が「デザイナーズ物件」となっている、という可能性。


そんなことを考えていたら、これは「アート」という言葉の歴史とも相同性があるなあと思いました。
簡単にまとめてしまえば、本来は一般的に「技術」という意味の語であったものが、
17世紀フランスで、現在われわれが「芸術」と考えるものを「美しい技術 beaux-arts」と呼ぶようになり、
それが18世紀には「art」という言葉自体で「芸術」を意味するようになっていったという変遷。
「デザイナーズマンション」の意味的変遷(仮説)もこれにどこか似ているようにも思えます。


そういう、たわいもないことを考えていました。